MXDORTOによる分子動力学シミュレーション結果のWebブラウザによる表示
― GUIを使った対話型簡易表示プログラム ―

岡本 裕, 坂井 俊彦, 関沢 恒男


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1 緒言

分子動力学シミュレーションは材料の物性,構造などの研究をはじめ,種々の分野で欠かせないツールとなりつつある.河村らによる分子動力学シミュレーションプログラムであるMXDORTO[1]は国内の分子動力学プログラムの草分け的存在として,これまで多くの研究者によって使用され,数多くの貴重な成果をあげてきている[2].MXDORTOにはデータ解析用に幾つかのプログラムが付属しており,その中には分子構造を表示するプログラムも付属しているが,これらデータ解析プログラムは動作環境が基本的にMS-DOSであるため,近年の分子モデリングソフトウェアにみられるような精細な分子構造の表示ができない.現在,三浦によって公開されている多機能な分子グラフィックスソフトウエアであるRYUGA[3]を利用することによって,UNIXワークステーション上ではMXDORTOによるシミュレーション結果を精細な三次元画像として表示することが可能であるが,WindowsやMacOS上でMXDORTOによるシミュレーション結果を精細に表示するプログラムはこれまでに報告されていなかった.
最近,坂井はMXDORTOを用いたシミュレーションによって得られる原子配置のデータから,分子構造を表示するためのVRMLファイルを生成するプログラム[4]を公開した.これにより,WindowsやMacOS上でもMXDORTOを用いたシミュレーションによって得られた分子構造をWebブラウザの利用によって表示可能となった.しかし,このプログラムはGUI(Graphical User Interface)を備えておらず,操作性に乏しい.本報告では,坂井のプログラムをもとにして,これにGUIを追加し,より容易に扱えるようにしたプログラムを作成した結果を報告する.

2 プログラムの概要

MXDORTOによるシミュレーションで得られる物質の原子配置は3次元空間のx,y,z座標のテキストファイルとして得られる.本プログラムでは,このファイルから個々の原子配置を読み出し,分子構造を表示するためのVRMLファイルを生成する.できあがったVRMLファイルはWebブラウザとそのプラグインソフトを利用することによって,プラットホームに依存せず表示することが可能である.開発言語にはVisual Basic Ver. 6.0 (Microsoft)を使用した.また,VRMLはVer1.0準拠とした.
プログラムの流れの概略をFigure 1に示す.まず,MXDORTOによるデータファイルを指定してデータを読み込み,続いて表示する原子の大きさや背景色,その他分子構造の表示の際に必要となる各種条件の設定を行い,最後に設定された条件にしたがってVRMLファイルを生成する.


Figure 1. プログラムの流れ図.

3 プログラムの実行

3. 1 MXDORTOデータファイルの指定

本プログラムを起動すると最初にFigure 2のウィンドウが開く.ここでメニューから [データファイルの読込] を選択するか,ウィンドウ内の [データファイルの読込] ボタンを押すとファイル選択ダイアログボックスが開く.ここでデータファイルを指定すると,そのファイルに含まれる総原子数,原子種数,元素記号や化合物名等のデータを読み込み表示する(Figure 3). Figure 3にはCaTiO3について行ったシミュレーションのデータファイルを指定した場合の例が示されている.

Figure 2. 初期画面. Figure 3. データ読み込み後.

3. 2 表示条件の設定

3. 2. 1 表示の選択

ウィンドウ左上部のチェックボックスで表示するものを選択する.原子だけの表示,結合だけの表示,あるいは原子と結合の両方の表示など自由に選択することが可能である.

3. 2. 2 セルと背景の色

「セルと背景色」エリアには現在選択されているセル面の色,背景の色,及びセルの大きさが表示されている.表示色を示すこれら四角内をクリックするとダイアログボックスが開き,表示色を変更することができる (Figure 4) .
セルの大きさはスクロールバーの操作により変更できる.VRMLによる表示では,原子数が多くなるとそれを表示するために大量のメモリが必要となる.セルの大きさを小さくすることで,表示する原子や結合が減り,あまりメモリの多くないパソコンでも表示が可能となる.また,部分的な結合を見る場合にもこれは有効である.


Figure 4. 色設定ダイアログ.

3. 2. 3 原子の大きさと色

「原子」エリアのリストボックスに表示されている元素記号を選択すると,その原子種についてのプロパティーの各項目が右側に表示され,原子の種類別に色とサイズを指定することができる (Figure 3) .原子の大きさはスクロールバーの操作により100段階で指定できる.また,原子の色は3.2.2と同様の操作で変更できる.

3. 2. 4 表示する結合

「結合」エリアで表示する結合の手およびその色と太さを指定する. [結合の設定]ボタンを押すとダイアログボックスが開き,左のリストボックスに可能な原子の組み合わせが表示される(Figure 5).これらの原子の組み合わせの内,結合を表示する組み合わせを左のリストボックスに残し,結合を表示しない組み合わせを右側のリストボックスに移動する.例えば,Figure 5でO - Ti 間の結合を表示しない場合には,左側のリストボックスにある「O - Ti」を選び,[削除->] ボタンを押す. 「O - Ti」の表示は右側のリストボックスに移り,O - Ti間の結合は表示されなくなる.再び表示させる場合には,右側のリストボックスより「O - Ti」を選択し, [<-追加] ボタンを押す.すると「O - Ti」が左側のリストボックスに移り,O - Ti間の結合が表示されるようになる.また,それぞれの原子の組み合わせにおいて,結合しているとみなす結合距離の最大値をそれぞれの組み合わせ毎に指定する.結合子の色は3.2.2と同様の操作で変更可能であり,表示する結合の手の太さは,3.2.3と同様の操作で変更できる.


Figure 5. 結合設定ダイアログ.

3. 3 VRMLファイルの生成

3.2の表示条件の設定が終了した後,メニューから [VRMLファイルの生成] を選ぶか,ウィンドウ内の [VRMLファイルの生成] ボタンを押すと,ファイル保存ダイアログボックスが開く.ここでVRMLファイルを保存する場所とファイル名を指定すると,設定した条件にしたがってVRMLファイルを生成する.Figure 6は生成されたVRMLファイルの一部である.


Figure 6. 生成されたVRMLファイル(一部).

4 Webブラウザによる結果の表示

Figure 7Figure 8は,本プログラムによって生成されたVRMLファイルをWebブラウザを用いて表示したものである.表示された構造は様々に視点を変えることによって,詳細な観察が可能であった.ここではInternet Explorer Ver. 5.5 を用いたが,他のWebブラウザとプラグインソフトを使用することによっても同様な表示が可能である.また,VRMLファイルの表示には,Webブラウザ(あるいはそのプラグインソフト)自体の機能を利用するので,Windows,MacOS,UNIX等,異なる環境下でも同様に表示可能である.

Figure 7. CaTiO3の結晶構造. Figure 8. CaTiO3の結晶構造(一部).

参考文献

[ 1] 平尾一之,河村雄行, パソコンによる材料設計, 裳華房 (1994).
[ 2] 三浦理隆治,宮本 明, 化学工業, 47, 687-693 (1996).
[ 3] 例えば,
Dae-Weon Kim,Naoya Enomoto et al., J. Am. Ceram. Soc., 79, 1095-99 (1996).
[ 4] 坂井俊彦, JCPE Journal, 12, 147-148 (2000).


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