ポリマー 略記号 | 名称 | 使用製品 | |
---|---|---|---|
1 | HIPS:スチロール(HI) | 耐衝撃性ポリスチレン | 弱電機器キャビネット,プラモデル |
2 | ABS | アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン | 自動車部品, 室内壁材,電気部品 |
3 | AS | アクリロニトリル-スチレン共重合体 | ジューサー, バッテリーケース,ペン軸 |
4 | PC | ポリカーボネイト | 風防硝子、ハッチ、機械部品 |
5 | PP:ポリプロピレン | ポリプロピレン | 雑貨品, ヘルメット, ワッシャ |
本研究で用いた5種類のプラスチックのサンプルとその主な実用的用途をTable 1に示す。これらサンプルのスペクトル[4]をFigure 1からFigure 5に示す。図中の平板なスペクトル(破線で示されているもの)は黒色プラスチックの近赤外スペクトルである。黒色プラスチックの近赤外反射スペクトルの強度が、白色のものと大きく違うことがわかる。細かく見ればHIPSやASでは、白色のもののスペクトルと同じ傾向のスペクトルが得られているが、ASやPC, PPでは、見た限りでは、スペクトルの特徴は何も得られない。Figure 6には、今回用いた黒色プラスチックの近赤外反射スペクトルをまとめた。HIPSとABSは、白色の物のスペクトルが非常に良く似たパターンを示すことを反映し、黒色のもののスペクトルも非常に良く似たパターンが得られている。ところがABSとASの白色のもののスペクトルは、非常に良く似ているが、ASの黒色のスペクトルは極めて平板であり、両者は似ていない。AS, PC, PPのスペクトルは、非常に平板で、それ自体から構造を読み取るのは不可能に近い。今回用いたサンプルのどのプラスチックも、黒い物の近赤外反射スペクトルからの視覚的な分類は非常に難しいということが理解できよう。
Figure 1. サンプルとして用いたHIPSの近赤外スペクトル平板なスペクトルは黒色プラスチックのスペクトルである。
Figure 2. サンプルとして用いたABSの近赤外スペクトル平板なスペクトルは黒色プラスチックのスペクトルである。
Figure 3. サンプルとして用いたASの近赤外スペクトル平板なスペクトルは黒色プラスチックのスペクトルである。
Figure 4. サンプルとして用いたPCの近赤外スペクトル平板なスペクトルは黒色プラスチックのスペクトルである。
Figure 5. サンプルとして用いたPPの近赤外スペクトル平板なスペクトルは黒色プラスチックのスペクトルである。
Figure 6. サンプルとして用いた黒色プラスチックの近赤外反射スペクトル
Figure 7. 黒いHIPSの近赤外反射スペクトルのパワースペクトルとその直線回帰
傾き | 切片 | |
---|---|---|
HIPS | -2.156006 | -2.487772 |
ABS | -2.084649 | -1.836167 |
AS | -1.950285 | -3.149488 |
PC | -2.066164 | -3.340153 |
PP | -1.465007 | -5.275934 |
Table 2には5つの黒色プラスチックのサンプルの回帰直線の切片と傾きを示した。これらは、スペクトルの周波数が0以上0.5未満の低波数領域と2.0より大きい高波数領域を除いて(フィルタリングあり)直線回帰した結果である。
またFigure 8に、これらの回帰直線の傾きと切片をそれぞれx軸y軸としてプロットしたものを示した。
Figure 8. 5種類の黒色プラスチックの近赤外反射スペクトルのゆらぎの回帰直線の傾き(x軸)と切片(y軸)(フィルタリングあり)
Figure 8をみると、平板な近赤外反射スペクトルを用いても、1/fゆらぎ解析により5つのプラスチックは良く分類されていることがわかる。Figure 8のx軸の目盛が0.2刻みであり、y軸目盛が1刻みであることから、傾きより特に切片の違いが大きいことがわかる。スペクトルの似ているHIPSとABSは近い所に現れている。しかし、両者の切片が異なる。また、ASとPCも近いところに位置しており、PPだけが離れていることがわかる。このように、たとえ非常に平板な近赤外反射スペクトルデータを用いても、各プラスチックに特有なスペクトルの1/fゆらぎが保存されており、回帰直線の傾きと切片の平面で、それぞれのプラスチックが十分分離されることがわかる。
本結果は、同じ条件で測定された同一ポリマーの6つのデータに対して、同様の結果を与える。もちろん測定条件が大きく異なり、異なったスペクトルが与えられた場合、結果が異なることは自明である。
この結果からは、回帰直線の切片はプラスチックの反射率を、また傾きはスペクトルパターンを反映していることが示唆されるが、詳細は明らかではない。
Figure 9. 主に自動車部品に利用されている灰色から黒までの7種類のPPの近赤外反射スペクトル
Figure 9に主に自動車部品に利用されている灰色から黒までの7種類のPPの近赤外反射スペクトルを示した。PP1のグラフが白色のPPの近赤外反射スペクトルである。暗色を加えると非常に近赤外反射スペクトルが平板になることがわかる。これらを1/f揺らぎ解析を行ってそれぞれの回帰直線の傾きと切片を表示するとFigure 10となる。これをみると、Figure 8と同様、x軸の目盛が0.2刻みであり、y軸目盛が1刻みであることから、暗色のPPでは、暗さの度合いにより、傾きよりむしろ切片が大きく異なっていることがわかる。このことからも、切片は物質の反射率を反映していることがうかがえる。
おおまかであるとはいえ、暗色のプラスチックの平板な近赤外反射スペクトルを用いても、本方法により、簡便にして安価にプラスチック廃棄物等の材料、状態の分類が可能となることが示唆される。
Figure 10. 灰色から黒までの7種類のPPの回帰直線の傾き(x軸)と切片(y軸)
有益な議論をいただいた三菱化学の中村振一郎博士ならびに諌田克哉博士に深く感謝する。