雨中水素イオン濃度の自動測定装置

田中 孝


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1.まえがき

 地球環境問題のひとつとして注目されている酸性雨の測定に関し、日本では1983年より環境庁による第一次酸性雨対策調査が施策されて以来、国設大気測定所で酸性雨自動測定機によるモニタリングが実施されている。[1]
 酸性雨のモニタリング[2] には、酸性雨自動測定機、自動採取装置などが使用されているが、簡便に降雨中のpHと各降雨量ごとのpH分布を測定するためマイコンを利用した自動測定システムの構築を試み[3]、検討した結果、所期の成果を得たので概要を報告する。

2.ハ−ドウェア(装置仕様)

雨水採取装置   自作
雨水計量装置   液面自動検出式コントロ−ラ−HL-88 堀場製
         電磁弁 AV-4242-11(DC-24 V)  ノ−トン製
pHメ−タ−   F−14              堀場製
pH電極     6366−10D 堀場製
電気伝導度計   CM−40V        東亜電波工業製
電源装置          函館部品センタ−製
電動撹拌器    MS−16B 東洋製
マイコン     NEC PC−9801DX
インタ−フェイス ADA12−8/2(98) コンテック製
プリンタ−    VP−1047 エプソン製

 装置の全体図を図−1に示した。雨水採取装置は市販されているポリバケツ(開口部内 径 25.3 cm)を使用した。設置場所は函館高専物質棟屋上であり、底部に導水管として軟質ビニル管を装着し計測装置まで雨水を自然流下させた。計量セルは内径18 mmの試験管、測定セルはプラスチックサンプルビンをそれぞれ加工し使用した。計量は市販の光電式水位計により計量セルに雨水が一定量貯まる毎に常時密閉式電磁弁を開放することで雨水を測定セルに導入する方法とした。電磁弁の駆動方法は、水位計コントロ−ルユニットにより水位センサ−作動時、電磁弁用電源装置のスイッチが一定時間入ることにより電磁弁を動作させている。さらに電源装置の5 V電圧出力端子を利用、A/Dコンバ−タ−により通電状態をパソコンが監視し、その通電回数を積算して降雨量に換算した。
図−1  装置全体図

 pH値は RS-232C回線により、pH計より取得、電気伝導度は電気伝導度(EC)計の記録計出力及び、レンジ出力を A/Dコンバ−タ−を介し取得し、各降雨量ごとのpH測定値・EC測定値とした。 ポリバケツの開口部内径から雨量1 mm当たり採取される降水量は50 cmであり、測定セルの容量はpH複合電極、EC電極さらに、電動攪拌器用回転子 をセル内に装着した状態で約15 cmであり、置換効率を考慮した最小所要量は9 cmである。試料水の置換方法は計量された雨水の流下圧力による置換方式であり充分に置換出来る様、測定単位を降雨量0.5 mm とした。各装置の動作をタイムチャ−トとして図−2に示した。
図−2タイムチャ−ト

3.ソフトウェア

 計測装置を制御し処理実行するためのプログラムは、 MS-DOSVer3.30B、N-88BASIC(86)Ver6.0により記述されている。パソコンの電源投入後、自動的に立ち上がりメニュ−選択 画面となる対話形式となっている。自動計測の実行モ−ドでは、計測の開始と共にシステムは降雨があるまで待機モ−ドとなっている。ここで計量セル水位センサ−の動作を監視するため、A/Dコンバ−タ−により電源装置の通電状態をモニタしている。この結果、降雨量が 0.5 mmに達し発生する電圧変化を合図として、計測を開始する。予め初期化されたランダムファイル上にパソコンの内部タイマを利用し月日を記録、次にpH測定を開始する様、 RS-232C を介しpHメ−タ−に信号を送信、得られたpH値とEC値を測定開始時刻と共に記録する。この動作を連続的に行い、最終降雨から2時間以上降雨が無い場合に降雨終了と自動的に判断する様プログラミングされている。
 この結果、降雨量0.5 mm単位で各測定値と時刻が記録ファイル上に書き込まれる。これ と同時に、プリンタ−にも各計測時ごとに時刻と測定値を出力する、安全策を取っている。 また、記憶ファイル上の測定値を修正・加筆出来る様に修正プログラムをも用意した。
 記録された測定値は、各降雨ごとあるいは一ヶ月さらに一年を単位として、降雨量・水 素イオン濃度・電気伝導度・平均水素イオン量・平均電気伝導度・単位面積当たりの水素 イオン降下量を集計する集計プログラムを用意した。平成8年度の測定結果[]の一例として図−3に平成8年9月18日の計測結果のプリントアウトを表示した。 
 この記録では、正午から午前0時頃まで降雨が小雨ではあるが断続的に続いた状態が示され、降雨量 0.5mmごとのpH変化が理解しやすい形で示されている。

図−3 測定結果(平成8年9月18日)

降水番号8では短時間に雨量が増加し、計測終了前に次降雨が測定セルに流入され欠測している。この様な場合、前後の降雨の測定値により補正している。この降水の総雨量と測定値は次の様な結果となった。総雨量として13.5 mm、平均pH4.69平均電気伝導率4.64ms/mであった。
 pH測定による応答時間(pH指示が安定するまでの時間)は、降水の性状によって変化するが、目安として表−1を示した。pH値が同様でも電気伝導率が低下するに従い、応答時間が長くなる事が理解される。実降雨の場合、降水が計量され、そのpH測定が終了するまで平均して150秒程度必要としている。このため1時間当たり降水量10mmを越える様な集中的降雨については上記の様に欠測する場合がある。

4.まとめ

 一般的な酸性雨のpH測定は野外に設置された採取装置により、一雨ごと雨水を採取しpHの測定を行っているが、降雨中のpHは初期降雨中に酸性降下物が多く含まれ、その後減少することなどから、降雨中に変化することが知られている。[1][2] 自作したこのシステムにより、雨中野外にて降水を採取する事無く、降雨時刻に影響されずに、簡便に雨水のpHと共にEC値、降雨量、降雨時間を同時に計測出来る様になった。  機器構成にあたって、出来るだけ市販品を利用している。これは、長時間連続運転時における信頼性と特別な電子工作の知識を必要とせずに構築しようとした為である。この結果、簡単な工作と結線により作製出来た。
 本システムにおいては、測定セルの構造的制約から、測定セル内降水の完全置換が出来ない事。また、pH測定の応答時間の問題から集中的降雨には対応仕切れない。などの問題が残っている。これらについては強制排水用電磁弁の設置や低伝導率対応pH電極の使用、または、フロ−分析用比較ユニット[5] を使用する事により、解決出来ると思われる。今後の課題である。
 さらに、乾性降下物除去のためフィルタの使用や、プログラムのwindows 化、常駐化などの課題もあるが、当初の目的である降雨中における雨水のpH連続自動測定を実行する事が出来た。

5.参考文献

1)酸性雨土壌植生影響研究会編,”酸性雨:土壌・植生への影響”,公害研究対策センタ−,p101(1990)
2)酸性雨調査法研究会編,”酸性雨調査法”,ぎょうせい,p49(1993)
3)田中孝、乙山猛、長谷川利勝,函館工業高等専門学校紀要,29,73(1995)
4)函館工業高等専門学校紀要32,投稿予定
5)松本光広:雨水分析における情報管理の検討,環境技術,21,258(1992)
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