ハードとソフトと人間と
兵庫県立大学 学術総合情報センター 林治 尚
(2009年03月15日 会告Vol.8, No.1)
この30 年で「コンピュータ」の計算能力は数万倍に、いや数百万倍以上にもなったとさえ言われている。スーパーコンピュータからPC、携帯、ゲーム機、果ては組み込みチップに至るまで、(広い意味での) コンピュータが当たり前のように我々の周囲にある世の中となった。そんな中、世界最高水準の実効演算性能を稼働開始時の目標とする、最先端の高性能汎用計算機である次世代スーパーコンピュータが、現在、神戸ポートアイランドに着々と建設中であり、開発・整備を経て2010 年度末には稼働開始予定である。これは、第3 期科学技術基本計画で示された5 つの国家基幹技術の1 つとして位置付けられた国家的な大規模プロジェクトで、今後の科学技術と産業の発展に不可欠なものになる、と我々計算化学屋のみならず、様々な分野から幅広く熱い視線を集めている。
これらハードウェア面の進展の一方、OSやプログラム言語などだけでなく、広くは理論の計算手法までをも含めた(広義の) ソフトウェア面の発展はどうだろうか。もちろんハードウェアの性能向上に伴って、従来では困難だと思われてたことや手法が可能となるだろう。この次世代スパコンの稼働開始と共に、これまでよりもさらに大規模な計算や高精度の計算が実現し得るということだけに留まらず、想像だに出来なかった新たな考え方や方法論が次々に生まれ得ることにも期待が膨らむ。
そして、これらハードとソフトを用いる「人」はどうだろうか。言うまでもなく、これまでに蓄積された技術や知識によって、素晴らしいアプリケーションやツールが既に数多く存在し、ほとんどの作業がこれらツールの組合せで実現可能となっている。しかしながら、これらツールの便利な使い方を覚えることだけが目的ではないだろう。最初はブラックボックスでも構わないが、その面白さに目覚めて中身を徐々に理解して、ハードとソフトを繋ぎ、研究・教育・産業へと充分に活用しうる人材が求められる。それには問題を一面からでなく、複数の視点から多面的に見ることを可能とするためにも、専門分野は多岐に亘ることが望ましいだろう。次世代スパコンの稼働を迎え、こういった人材の育成は、学術組織や研究機関の責務である。ひいては本学会がその一端を担えればと心より願う。
ハードウェアの発展とともに、これからのソフトウェア、それにこれからの人間は、どう変貌を遂げていくのであろうか。この3 つが相互作用しつつ協調することで互いに進歩していくだろう。次世代スパコンによりどのような展開を迎えるのかが楽しみである。