コンピュータ化学についての雑感
埼玉大学大学院理工学研究科 太刀川 達也
(2008年3月15日 会告Vol.7, No.1)
コンピュータ化学というのは、「化学」を対象とし、手法に「コンピュータ」を用いた学問ということになるのでしょうが、その対象となる題材、及び、コンピュータの利用方法は、日本コンピュータ化学会での発表や学会誌での論文を拝見すればわかりますように、非常に多岐に渡っています。私が主として参加している有機化学(構造と物性)の分野では、大半の研究は、「こういう機能の発現を目的として、こういう分子を合成しました。合成した分子の機能を評価したらこうでした。その理由を考察するとこういう訳でした。」というストーリー展開になります。多少馴染みの薄い性質が対象となっていてもなんとなく理解が可能です。しかしながら、私に理論やハード面での知識が少ないせいもあるのですが、コンピュータ化学会における研究対象や手法の幅広さに驚いてしまいます。「ある物質の性質を、計算化学的手法を用いて評価したらこうなりました。」的な研究は有機化学者にも理解が容易なのですが、プログラムの改良や新しい関数の検討、計算機の並列化やそれに基づくプログラムの作成、さらには、統計処理、情報検索・データシステム、分子描画プログラムの作成といった多岐に渡る研究は、例えば、「新しいカラム充填剤の溶質の違いによる保持時間を検討しました。」とか、「粘性流体が曲管を流れるときの管径と流速の関連を検討しました」というのと同じくらい異分野な感じです。目的と結果はわかるのですが、結果に至る過程を理解するのが...知識が足りないだけですね。
コンピュータ化学会の間口の広さは、コンピュータを手法として用いる様々な分野の研究者が集まれるという魅力があり、良いことだと思いますが、反面、分野が様々であるが故に隣の研究発表との関連性が低く、自身の研究との関連分野の研究が少なく感じられるのではないかと思います。本当は、自らの専門に近い学会、様々な分野の研究者が一つの興味のもとに集まる学会、の両方の学会に所属するのが良いのでしょうが、時間や効率の面から前者が多く選ばれるのでしょう。学会に寄せられる論文にも、コンピュータを手法として用いる様々な分野の研究が寄せられて来ます。ときどき、その対象は化学ではないのではないかという議論が持ち上がることあります。審査員をお願いする先生にも、専門からやや外れた論文をお願いすることも多々あるため、なかなか審査をお引き受けしていただけない場合もあります。ご理解いただけますようよろしくお願いいたします。
最後に、私事ですが、来年度から1年生向けの必修講義である「情報科学基礎」を受け持つことになりました。前年度まではコンピュータの基礎的なことをお話されていたようで、化学とのかかわりが小さかったようです。化学分野での情報科学基礎として伝えたら良いことに頭を悩ませていますので、何かアイデアがございましたらお寄せいただきますようよろしくお願いいたします。