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特集「科学技術計算専用ロジック組込型シミュレータの開発」

産総研計算科学研究部門 長嶋 雲兵

(2005年12月15日 会告Vol.4, No.4)

※巻頭言のタイトルがなかったため,特集テーマをタイトルといたしました.

環境問題、エネルギー資源問題、食糧問題といった地球規模の課題の多くに対し、物質の学としての化学がになうべき役割は非常に大きい。様々な種の急激な消滅や、地球温暖化による環境の激変、新種のウイルスの発現等、21世紀初頭の我が国の置かれた状況のみならず地球規模の状況を鑑みるに、限られた資源、エネルギー、空間の中で、あらゆるものとの穏やかな共生を可能とする科学技術システムと社会システムの構築が急務であり、「穏やかに持続可能な社会」への展望を開く科学技術の果たす役割はますます大きくなっている。特に物質科学分野においては高度情報化社会を支える高機能性材料の設計、それを創製する技術、人間・環境調和型分析技術および高効率生産プロセス技術の開発、そしてポストゲノムとして生体関連機能物質の解析・設計および高効率な医薬品創製などが強く求められていることは言うまでもない。そのため、これらを強力に推進する分野横断的な研究展開が急務となっている。とくに、環境負荷の低減を実現する機能性分子・材料レベルから物質・エネルギー循環に関わる地域環境情報に至る多次元のミクロからマクロまでの包括的かつ学際的な計算科学技術および情報基盤の構築とその展開が求められており、中でも分子シミュレーションは、社会的な要請であるこれらの課題にとって不可欠な技術である。特に実験先導型から予測先導型へのパラダイム転換を加速するものとして、その重要性はますます大きくなっている。

分子シミュレーションは、計算機の中に作り出した物質系に対して、シュレディンガー方程式を解いたり、古典的近似を取り入れた運動方程式を解くことにより、その物性を調べるものである。分子シミュレーションは並列計算機との親和性が非常に高いことが知られており、従来よりスーパーコンピュータの利用分野として確たる地位を占めているが、対象がアボガドロ数個すなわち1023個の粒子系であるため、電子計算機誕生から半世紀を経た21世紀初頭の現在といえども、分子シミュレーションが実験室の試験管の代わりをするにはまだまだ計算機の能力は小さく、十分に大きい系つまり「現実を反映した大規模分子系」の精度の高い分子シミュレーションは不可能である。さらにスーパーコンピュータや高性能ワークステーションクラスタといった大規模並列計算機システムは高価であり、かつ設備の維持管理も大変であるため、研究者が研究室レベルで「現実を反映した大規模分子系」の分子シミュレーションを実現することは容易なことではない。「現実を反映した大規模分子系」の分子シミュレーションを、「低コスト=パーソナルユース」で実現するためには、計算量を軽減する大胆な近似法を取り入れ、さらに有効なアルゴリズムの開発に加え、計算機の性能を飛躍的に向上させることが必須である。

本特集では、計算機の性能を飛躍的に向上させることの試みとして、日本が得意とする組み込み技術を用いた分子シミュレーション向けの専用計算機の開発(Embedded High Performance Computing: EHPCプロジェクト 研究代表者 村上和彰 九州大学教授)の成果を紹介し、分子シミュレーション向け専用計算機開発の最近の発展と動向を探る。

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