ごあいさつ
日本コンピュータ化学会が発足して以来、細矢前会長と平野名誉会長のもとで学会活動が行われてきて、20年余りがたちました。その活動は、春・秋の年会の実施、日本語と英語の2種の学会誌の発行、講習会・講座の開催、社会への発信など多岐に及んでおり、高いレベルでの学会活動を維持できていることは言うまでもありません。このたび役員会において私が会長に選出されてそれらを継続する重責をひしひしと感じているところです。会員数の維持・増加や、財政などとともに皆様とともに取り組んでいかなければならないと考えていますのでよろしくお願いします。
本学会は「計算・理論・数学・統計学・情報処理等の手段を用いる化学の研究及び教育」に寄与することを目的としていますが、このことは根幹として変わりません。一方で、この20年で、コンピュータの性能がさらに著しく高まり(増大し)大量のデータを高速に処理できるようになった結果、新たに人工知能 (AI)、機械学習などが実用レベルに達しつつあるように言われるようになってきました。
AIについてはすでにネット社会において盛んに取り上げられ、問題点も指摘されているところです。AI等の化学分野における学術・開発・教育における役割・有効性などは、今後注意深く検証していかなければならないと思いますが、その検証の役割は本学会にも求められていると考えるべきでしょう。このことは年会・論文誌などで議論すべきであると考えます。
一方で、本学会の根幹としてきた計算化学、分子シミュレーション、電子状態計算、化学数学、統計的な化学分野の推進に対する努力はまだまだ必要で、発展させなければなりません。コンピュータの性能が飛躍的に高まったと書きましたが、原理的な電子状態や大規模な分子シミュレーションのためにはまだまだ不十分です。われわれがなすべきことは精度確度などを損なわない適切な工夫を行った効率的な手法の開発・実施も求められています。
このように本学会の役割はいささかも減じていないことは当然のことです。理論の深化・発見、化学研究手法や化学機器の高度化、コンピュータの発達などにより、新たな実験・観察事実の取得が期待されます。このようなデータの解析に、計算化学の援用が大きな役割を果たす機会がしばしばあるものと期待されます。そのような議論が学会のさまざまな場面でたえまなく行えるように雰囲気形成に尽力していきたいと思います。よろしくお願いします。