2013年度表彰
日本コンピュータ化学会 2013年度 学会賞
【受賞者】
後藤 仁志 氏 豊橋技術科学大学 准教授
【受賞理由】
後藤先生は平成5年北海道大学理学研究科化学専攻博士課程を修了し、博士(理学)となられました。平成6年に日本学術振興会特別研究員(PD)となり、平成8年4月に豊橋技術科学大学工学部で助手となり、同年6月から東北大学反応化学研究所へ異動されました。そして平成10年に講師となられ、同年9月に豊橋技術科学大学大学院工学研究科の助教授として異動し、現在も情報・知能工学専攻の准教授として御活躍です。
後藤仁志氏は、分子が関わる物理や化学や生物学的な現象を分子科学から情報工学技術までの広い分野の視点を持って研究を行っている。特に、配座空間探索技術CONFLEXを開発し、大環状化合物の立体選択的有機化学反応の問題へ適用し、コンピュータ化学による立体配座解析をより実践的な産業技術として実現しました。そこから、医薬品の探索や生命現象の解析技術、また、ナノ材料の物性を高精度に再現するための結晶構造計算技術など、計算化学やバイオインフォマティクスを基盤技術とした分子シミュレーション技術や解析支援システムの開発に取り組んでいる。
以上のような後藤仁志氏の計算化学に対する貢献に対し「日本コンピュータ化学会」は、ここに後藤仁志氏を本会の学会賞の受賞者とすることに決定致しました。
(文責:会長 細矢治夫)
日本コンピュータ化学会 2013年度 吉田賞(論文賞)
【受賞論文】
原油増進回収におけるCO2/油系溶解現象の分子動力学解析
植村 豪1, 小寺 厚1, 津島 将司1, 河村 雄行2, 平井 秀一郎1)
1) 東京工業大学 理工学研究科 機械制御システム専攻, 〒152-8550 東京都目黒区大岡山2-12-1 2) 岡山大学 環境生命科学研究科 環境科学専攻, 〒700-8530 岡山市北区津島中3-1-1
Journal of Computer Chemistry, Japan, Vol. 12(2013), No. 4, pp.222-229.
【受賞理由】
本論文では分子動力学を用いて原油増進回収におけるCO2/油系溶解現象の分子論的解析を試みている。
CO2を用いた原油増進回収(Enhanced Oil Recovery, EOR)は、原油が取り残された油田にCO2を圧入することで原油回収率を高める技術であり、原油の増産と同時に二酸化炭素の隔離が可能な技術として、近年注目されている。EORでは油田中に圧入されたCO2が残存油に溶解することで、粘性低下、体積膨張など、油の物理化学的性状が変化し、原油回収率が高まるとされている。しかしながらCO2の溶解に関する分子論的メカニズムは未だ解明されていない。このため,本論文では油へのCO2の溶解に関して分子論的な知見を得ることを目的とし、分子動力学シミュレーションを行った。単成分系を仮定した油(シクロヘキサン、C6H12)を用い、CO2が溶解した平衡状態において解析を行い、さらに分子間相互作用の一つであるクーロン相互作用が溶解現象に及ぼす影響についても考察した。その結果、油に対してCO2がクラスター構造を伴って溶解していることを示した。
著者らの解析は油へのCO2の溶解に関する分子論的な知見を得るために、分子動力学的手法は極めて有効である事を示した。これはJCCJの読者のみならず、広く分子動力計算の応用分野の拡大と普及に役立つ事が期待される。分子動力学計算を用いた分子科学シミュレーションのさらなる発展を期してこれを吉田賞論文として推薦する。
(文責:会長 細矢治夫)