2017年度表彰
日本コンピュータ化学会 2017年度 学会賞
【受賞者】
立川 仁典 氏 横浜市立大学大学院 生命ナノシステム科学研究科 教授
【受賞理由】
2018年2月2日に開催された日本コンピュータ化学会役員会で、本年度の日本コンピュータ化学会学会賞を、横浜市立大学大学院生命ナノシステム科学研究科・同データサイエンス学部教授の立川仁典氏に授与することが満場一致で決まりました。ここに同氏の経歴と推薦理由を記します。
立川仁典氏は、1995年早稲田大学大学院理工学研究科化学専攻博士課程を修了し、同年博士(理学)を取得されました。1994年早稲田大学理工学部助手、1995年早稲田大学理工学総合研究センター講師(専任)、1997年日本学術振興会特別研究員(PD)、2000年理化学研究所基礎科学特別研究員を経て、2003年横浜市立大学大学院総合理学研究科助教授に就任されました。2005年同大学学内改組により大学院国際総合科学研究科準教授、2006年同教授、2009年より現職。この間、2004年東北大学客員助教授、2003年から2007年科学技術振興機構(JST)さきがけ研究員、2016年東京大学物性研究所客員教授を併任されています。
立川仁典氏の研究の基軸は、新しい量子化学理論手法の開発・実装と、それらを駆使した計算化学的な現実系への応用展開であります。まず立川氏は、分子軌道法に基づいた「水素系量子シミュレーション技術」を構築し、従来の第一原理計算手法だけでは直接評価することが困難であった、水素原子核自身の量子力学的な性質が関与する現象や、H/D同位体効果に伴う物理量の変化を定量的に算出することに成功しました。その後、多体効果を効率的に計算するために、量子モンテカルロ法や密度汎関数法に基づいた量子多成分系手法を開発し、さらには経路積分法を効率的に組み合わせることで、様々なタイプの量子多成分系分子理論を開発・実装してきました。このような質の高い研究活動に対し、立川仁典氏は、平成19年度文部科学大臣表彰科学技術賞(若手科学者賞)を受賞しています。
一方、立川氏の手法は、従来の量子化学が対象として扱えなかった、陽電子(電子の反物質)やミューオンを含むような化合物にも適用可能であることを見出しました。陽電子は対消滅による非破壊測定という特性から、既に工学や医療等の幅広い応用分野で実用化されてはいるものの、分子レベルでの詳細は十分に解明されておりませんでした。立川氏の手法を応用することで、分子レベルでの実験結果を定量的に再現するだけでなく、陽電子付着機構を説明することにも成功し、その結果は多くの実験研究者にもフィードバックされております。
立川氏の研究成果は、物理化学的な基礎研究に新しい局面を開くだけでなく、多成分系に潜む新しい概念の構築や、それに基づく新たな現象の予測・設計、そして有機化学や生物化学のような多岐にわたる研究分野、とりわけ水素エネルギー関連技術といった応用分野への新展開にも繋がるものと期待しています。
以上のような立川仁典氏の計算化学に対する貢献に対し「日本コンピュータ化学会」は、ここに立川仁典氏を本会の学会賞の受賞者とすることに決定致しました。
(文責:会長 細矢治夫)
日本コンピュータ化学会 2017年度 吉田賞(論文賞)
【受賞論文】
計算としての化学反応によるゲルのロコモーション
吉田 彩乃1, 櫻沢 繁1
1) 公立はこだて未来大学
Journal of Computer Chemistry, Japan, Vol. 16(2017), No. 1, pp.17-21.
【受賞理由】
複雑な実世界に適応する自律型ロボットを開発するために,生物の行動パターンにみられる階層性を極端にモデル化したシステムが開発されている.しかしシステム全体を制御するための同期機構には、固定的なアルゴリズムによってモータを駆動するシステムが採用されている。そのアルゴリズムは設計者によってシステムの外部から与えられているため,フレーム問題を回避できない.(フレーム問題を一言で言えば、行動を起こすために何を考えれば良いかを考えねばならず、そのために思考の枠つまりフレームを設定する必要がある。と言うこと。フレームが設定されないと無限のタームをチェックする必要が出てくるため計算が終わらない。)フレーム問題を回避するためは,フレームを自在に変化させ、システムの内部から自動的に生ずるアルゴリズムによってシステムが動作する必要がある.
フレーム問題にはかなり高機能・高性能のロボットが必要である。そこで著者らは振動反応であるBZ反応が計算として機能することに着目し,BZ反応による自励振動ゲルを用いて,アルゴリズムを与える事無く自発的に一方向の運動を示す化学ロボットの開発を行った.その結果,BZ反応に寄与する物質の拡散速度とゲルの形やサイズのバランスをとることで,内生的に非対称性を作りだすことと,その化学反応によって実際にゲルが一方向に蠕動運動することを具体的に示すことに成功した
本研究は、計算化学の手法を用いて、AI等に現れるフレーム問題の解決に大きな発展をもたらす挑戦的なシステムであり、本研究で実装されたプログラムはデータ科学分野への質の高いメッセージを示すことが可能となる。
本論文は計算機化学の多様な発展に大きな希望を持たれていた故吉田 弘先生のご意志にそうものであるので、ここに一層の発展を期してこれを吉田賞論文として表彰する。
(文責:会長 細矢治夫)
日本コンピュータ化学会 2017年度 功労賞
2017 Award for Distinguished Contribution to SCCJ.
【受賞者/Award Laureate】
Professor Emeritus Brian T. Newbold Universite de Moncton (Canada)
【受賞理由/Reason】
Professor Brian T. Newbold was born in Manchester, United Kingdom in 1932, and gained an Honours Bachelor of Science degree from the University of Manchester. He graduated from Universite Laval, Quebec (Canada) with a Doctorate of Science (magna cum laude) in chemistry. After a post-doctoral year there, he had a 45-year teaching, research, and administrative career at Universite Saint Joseph, and Universite de Moncton. He also taught biochemistry at Mount Allison University. He was Visiting professor at five universities in Canada, France, Brazil, and Japan. He holds numerous honours, including: Founding member of the National Science and Engineering Council of Canada, Chevalier Grand Cross of the Military and Hospitaller Order of Saint Lazarus of Jerusalem, Emeritus Professor of Universite de Moncton, Union Carbide Chemical Education Award, and Knight of the Academic Palms of France. He is the author of three books and 165 research papers.
Professor Newbold and J.T. Shimozawa (Saitama University) attended the annual meeting of the Committee on the Teaching of Chemistry of IUPAC in 1977 as National Representatives of their respective countries, Canada and Japan. J.T.S. had a keen interest in Information Science Education, especially in the field of Software Developments for Chemical Education. In 1984 J.T.S. invited professor Newbold to come to Saitama University as a visiting Professor for six months. The timing was convenient for Brian, who accepted for a term that was later increased to an eight months visit as a JSPS Fellow. J.T.S. was the Secretary General of the Eighth International Conference on Chemical Education (8-ICCE) held in Tokyo the next year. Besides attending meetings of the Organizing Committee of the Conference, professor Newbold checked the English-language content of submitted manuscripts and abstracts, and made corrections where necessary.
T. Yoshimura (Fukui Technical College) organized the Association of Personal Computer for Chemists (APCC) in 1982. Throughout his participation in the 8-ICCE and succeeding 10-ICCE(Waterloo, Canada), he learned much from professor Newbold and decided to visit Universite de Moncton in 1991. The results of their collaborative work were published in several papers. For example,
- T. Yoshimura, Y. Aoyama, H. Ohtake, Y. Sasamura, J.T. Shimozawa, and B.T. Newbold, Development of Software for Chemical Education using Multimedia Techniques, J. Chem. Software, 3, 73-82 (1996).
For more than fifteen years professor Newbold has been performing many excellent collaborative works with SCCJ members and their Journals. Therefore, the Society of Computer Chemistry, Japan declares that his longstanding achievements are worthy of the SCCJ Award.
Haruo Hosoya, President of the Society of Computer Chemistry, Japan