演 題 |
MOPACを利用した触媒反応機構の研究 |
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発 表 者 (所属) |
○前 学志,篠原祐治,中島 剛(信州大工) |
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連 絡 先 |
〒380-8553 長野市若里500 信州大学工学部物質工学科 触媒化学研究室 Tel/Fax 026-223-9567 E-mail: |
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キーワード |
MOPAC,酸化物触媒,反応機構 |
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開発意図 適用分野 期待効果 特徴など |
特定の反応を様々な酸化物触媒を用いて起こすケースについて量子化学計算を行い、その結果と実験結果との比較を通して反応機構を決定することを試みた。この手法によれば、任意の反応に対する最適触媒の選定も計算化学的に可能になる。 |
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環 境 |
適応機種名 |
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OS名 |
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ソース言語 |
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周辺機器 |
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流通形態 (右のいずれかに○をつけてください) |
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具体的方法 |
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1. はじめに
物質の必要な物性を測定し製品開発に効率的に利用することは、従来の実験的手法によっては困難が多い。しかし、近年のコンピューターの飛躍的な性能向上により、計算化学的手法を用いて物性を予測することが可能になりつつある。触媒化学分野でも、ここ十数年前からこの手法が数多く適用されてきている1)。しかし、最適触媒の選定が計算化学的手法により試みられている反応は必ずしも多くない。
これまで、我々は新触媒および最適触媒の探索を目的として、主に反応実験により触媒の活性序列を求めてきた。この活性序列は、妥当な反応機構に基づいて計算される活性化エネルギーや遷移状態モデルの関係部位の電子密度、結合次数などの序列に一致すると期待される。したがって、この一致がみられるかどうかによって計算に用いた遷移状態モデルの妥当性、すなわち反応機構の妥当性を検討することが可能となる。同時に任意の触媒の、活性序列における位置を推定することができる。
この計算のためには、優れた計算精度をもち、多種類の触媒、特に金属酸化物が扱え、計算コストも低い計算方法の採用が重要である。そこで、計算ソフトとしてはMOPAC93を採用した。
2. 基本的な考え方と手法の説明
計算的手法から触媒反応の活性化エネルギーを正確に求めることは現実には無理である。それは計算に用いる触媒のクラスターモデルが現実の触媒の再現性に乏しく、用いる計算手法の精度も高くないためである。そこで、我々は活性化エネルギーの計算値そのものを実験値と比較するのでなく、複数の触媒について計算により導かれる活性序列を実験結果と比較し、仮定した反応機構の妥当性を評価することとした。この手法の概要を次のスキームにまとめた。
3. 適応例
酸化物触媒による気相ベックマン転位反応の機構
【目的】硫酸触媒を用いるベックマン転位反応は、ナイロンの原料である e -カプロラクタムをシクロヘキサノンオキシムから合成する重要な反応である。これを硫酸触媒の代わりに固体酸触媒を用いて気相反応化する試みは長年にわたって行われているが、成功していない。最適固体酸触媒の開発のためには反応機構の決定が必要である。この反応に対しては、これまでに村上ら、LandisらおよびNguyenらにより三様の機構2)が提案されているが、どの機構が正しいのか定かではない。本研究はこれらの機構の妥当性を量子化学的に検討することを目的とした。
【結果】ジメチルケトオキシムとプロトンとからなるモデルを用い、遷移状態計算による反応経路の探索から、上記三様の反応機構の妥当性を検討した。その結果、B酸触媒による気相ベックマン転位反応が以下の機構で進むことを結論した。すなわち、B酸点がオキシムの窒素原子に作用した後酸素原子に移行する非律速過程のあとに、アルキル基の転位と同時にヒドロキシ基が水として脱離する律速過程が続く(Landisらの機構に一致)。
この機構に基づいて、代表的な四種の固体酸触媒(SiO2-Al2O3,γ-Al2O3,SiO2,ZnO)上でのシクロヘキサノンオキシムのベックマン転位反応の活性化エネルギーを計算した。その序列は、実験的に求められたこれら触媒の e -カプロラクタム選択性の序列と一致した。この事実は上記の機構の妥当性をさらに裏付ける。以上の結果は、特定の反応を様々な酸化物触媒を用いて起こすケースについて量子化学計算を行い、得られる結果と実験結果との比較を通して反応機構を決定する手法が有効なことを示す。
参考文献
1) 例えば、触媒, 40(1998)の3号. 2) 村上雄一ら, 日化誌, 21 (1978); P. S. Landis, P. B. Venuto, J. Catal., 6, 245 (1966); M. T. Nguyen et al., J. Am. Chem. Soc., 119, 2552 (1997).