論文誌 Journal of Chemical Software の電子出版

中野英彦

671-22 姫路市書写 2167 姫路工業大学工学部応用化学科
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1. 論文誌電子化の現状

 本学会では,インタ−ネットの可能性について早くから着目し,筆者を含めて7名のワ−キンググル−プ(姫路工大・中野英彦,広島大・吉田 弘,高知女子大・一色健司,創価大・伊藤眞人,群馬大・中田吉郎,埼玉大・時田澄男,福井高専・吉村忠与志)を組織し,1995年10月よりインタ−ネット上に学会のホ−ムペ−ジを開設するとともに,論文誌 Journal of Chemical Software のオンライン化とソフトウェアの配布を開始した.
 オンライン化の方法は,従来通りの審査方法で掲載が決定された論文(および,オンライン化開始時点ですでに発行されていた,第1巻第1号から第2巻第3号までの論文については,過去に遡って)について,著者からフロッピ−による機械可読原稿の提出を求め,提出されたテキスト原稿から手作業によってHTMLのタグ付けを行って,WWW方式によるオンライン情報発信を行ったものである.図等については,コンピュ−タ可読形式のデ−タが得られるものについては,WWW方式の標準画像デ−タ形式に変換を行った後に,またコンピュ−可読形式のデ−タが得られない場合には,イメ−ジスキャナで読み込んで画像デ−タとしてオンライン登録を行った.
 このような方法で電子化されたのは,過去に遡求して登録した第2巻第3号以前の論文 のうちの約半数の論文と,新規採択論文の第2巻第4号から,現時点(9月10日)においてまだ印刷体が 発行されていない第4巻第1号までのほぼ全部(ごく一部の論文については,著者が卒業してしまった等の理由でフロッピ−原稿の提供が得られず,電子化されていない)の論文である.
 登録された論文に対しては,海外からも含めて平均して1論文当たり月に10近くのアクセスがあり,冊子体の論文誌よりも情報の流通性が,範囲の面でも量の面でも格段に拡大されていることがうかがえる結果となっている.

2.現行電子化方法の問題点

 以上のように,論文誌の電子化の試みは基本的には成功していると考えられるが,現在の方法では,以下の2つの理由で,まだ不完全なものと言わざるをえない.
 その第1は,現在のWWW方式によるオンラインデ−タの提供では,得られる論文の品質が,従来の印刷体による論文の品質(ここでいう品質とはもちろん印刷の品質であり,内容の品質ではない)には及ばないという点である.オンラインでは,図形等が印刷体に比べて安価にカラ−に出来るという点を除けば,図形の解像度等の点でどうしても印刷体に比べれば劣ることになる.
 第2は,オンライン化が,従来通りの印刷体による論文審査過程を経て決定された後に,著者からあらためてフロッピ−による機械可読原稿の提出を求めて,手作業でなされるために,2重の手間をかけている点である.また,その作業中でのミスの可能性もあり,印刷体とオンラインの情報の整合性が取られていることが必ずしも保証されないという欠点がある.

3.全面的電子化の検討

 上記の欠点を解消し,さらに全面的な電子化を追求するために,筆者を代表者とし,ワーキンググループ員を分担者として「インターネットを利用した学術雑誌の電子出版」という表題で,文部省科学研究費補助金の申請をおこなった.初めて申請を行った平成8年度においては残念ながら採択されなかったが,平成9年度においても引き続いて申請を行った結果,幸いにして採択され,3年間にわたって研究補助金が支給されることになった.
 研究は開始されたばかりであるが,先日研究分担者が集まって打ちあわせを行った結果,以下のような方針で進めることを決定した.

4.SGMLによる論文の電子化

 SGMLというのは,Standard Generalized Markup Language の略であり,文章の論理的構造に従ってタグ付けを行うための言語である.WWW におけるHTMLをもっと一般化したものと考えていただければよいと思われる.現在の本学会の論文誌の電子化は,上記のように,従来の印刷体による出版はそのままにしておいて,その上にHTML化したオンライン配布用のデータを付け加えることで実施されているが,全面的な電子化においては,電子化された文書データが中心となり,そこから印刷体および電子出版用のデータに機械的に変換される必要がある.その場合,中心となる電子化文書には,その文書が含むあらゆる情報が含まれている必要がある.その目的のためには,SGMLが最適であると考えられる.いったんSGML化された文書が作成されれば,そこから印刷体あるいはオンライン出版用のデータへの変換は比較的容易であるので,問題は著者からの原稿をSGMLへ変換する段階と思われる.現在では,ほとんどの著者は何らかのワープロを使って原稿を書いているので,ワープロの文書からSGMLへ変換する方法を確立することが,この方法を成功させる鍵となるものと考えられる.
 上記のように,論文のSGML化を中心として,著者からの投稿,印刷体の出版,オンライン出版を統合的に電子化するとともに,レフェリーによる審査についての電子化についても検討課題となっている.