演題 |
KCl単結晶の破壊面
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発表者 (所属) |
太田泰雄 (福井高専)
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連絡先 |
〒916 福井県鯖江市下司町
Tel 0778-62-1111 Fax 0778-62-2597
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キーワード |
単結晶 破壊 ランダムウオーク
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開発意図 適用分野 期待効果 特徴など |
実際の単結晶の破壊過程は一様材料の場合と違って複雑である。 そこで単結晶 の場合は欠陥が破壊の進行に重要であると考え、実際のクラックが進行する様子
期待効果を表すシミュレーションのプログラムを作製した
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環境 |
適応機種名 |
すべての機種に変換可能
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OS 名 |
Windows95,Macなど
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ソース言語 |
C++
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周辺機器 |
プリンター
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流通形態 右のいずれ かに○をつけ てください) |
- 化学ソフトウェア学会の
無償利用ソフトとする
- 独自に配布する
- ソフトハウス、出版社等から市販
- ソフトの頒布は行わない
- その他
- ○未定
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具体的方法
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1. はじめに
材料の破壊は、その過程で塑性変形をともなうか否かによって延性破壊と脆性破壊とに大別される。しかし、この区分は材料に固有なものではなく、環境条件などに左右され、たとえば低炭素鋼のような延性材料でも低温では脆性破壊をおこす。
通常脆性材料を単軸引っ張り破壊すると大略的には引っ張り方向に垂直な面で破壊され、特に単結晶ではへき開がおこるが、細かくみると面には凹凸がある。この凹凸の粗さは応力の大きさに依存するものと考えられ、これまでいくつかの報告がなされてきた。たとえば、ゴムの場合について、き裂の伝ぱん速度が遅いときはなめらかな面、中程度では粗い面、速度が速いとなめらかな面となることが報告されている1)。
今回はこれに関連して、破壊過程における欠陥の挙動を検討するため、KCl単結晶をまずナイフを用いて(100)面で衝撃的に切断したときにできる破壊面の形状や凹凸を、結晶内部にある欠陥分布によって定性的に、また定量的に説明することを試み、さらに、パーソナルコンピューターを用いて破壊の進展をシミュレーションを行った。
2. 準一様材料の切断破壊
簡単のため、ここでは、まずほぼ一様な2次元材料中で欠陥を通じてのき裂の伝播を論ずる。また、実際のき裂生成機構は複雑であるが、ここではモデル的に垂直応力のみによるき裂発生を論ずる。
ここでは、最弱リンク説を3次元物体の破壊過程に対応させる一方法として、個々の欠陥付近の状況に着目して、き裂の進行を論ずることとし、十分広い平板上の1点に引っ張り集中力が作用したときの破壊を次の諸過程により処理する。
集中力Fによってすべての欠陥に応力σが作用するとし、そのときは破壊強度σidがσ(σ<σo)以下である欠陥はすべてGriffithクラックになると考える。かつ破壊応力の小さいクラックにき裂が進行する。破壊条件の同一な欠陥が2つ以上あるときはき裂が枝別れする。一般に等応力線は下方に大きく広がって進むのでき裂は大略的にはFに垂直に下向きに進む。
新しいき裂の先端Pには新しく引っ張り集中力が現れるので、次々と欠陥部を結ぶ形式でき裂が材料下面に到達して材料の切断が完了する。
大きい力で切断したほうが、き裂のみだれは多少細かい。これは次のように統計的に記述しうる。いまき裂がはじまり、水平面からの角度 (θi-π/2<θi<π/2)の方向にri だけ進むとしよう。一般的にri ,θiともに偶然量であるから、時刻tn において欠陥Pnにき裂が到達したときの中心線からのずれAの理論計算は困難であるが、x軸方向の移動距離ai = ri cosθiのかわりにaiの平均値ai を歩幅とするランダムウオークの問題と考えれば、回数nが十分大きい時次式が得られる。
A ~ (n )1/2 ai (1)
隣接欠陥についての ai をai = ri cos θi で近似すると、欠陥の平均分布密度D、試料の厚さdに対して、
ri = (1/D)-1/2 , n = d/( ri sin θi) (2)
が成立するから(1)式は次のように書ける。
A ~ d1/2(cos θi)D-1/4/( sin θi) (3)
これをC++言語により、実験値に近い適当な定数を用いてシミュレーションした。今後はこの結果を更に進めて、あらかじめ欠陥が分布している結晶内をクラックが進む場合についてのシミュレションを行いたい。