本研究の目的は、化学や材料の分野で、ナノあるいはオングストロームレベルの物質のミクロ構造を分子モデリングソフトなどで、コンピュータ上で、模型表示して、構造解析することが多くなされている。このコンピュータ上でのバーチャルリアリティ（仮想現実）な物質のミクロ構造表現をセンチあるいはメートルレベルの実体物にしようとする試みである。マクロ構造についても同様に可能と思われる。
　前報1）において、各種分子モデリングソフトで、より正確に作成された分子構造の種々の模型表示（棒球模型、空間充填模型、棒模型、リボン模型、蛇状模型、矢状模型、円柱状模型、多面体模型など）が、主に、切削加工により造形できることを試みてきた。また、直接の切削加工による鋳型作成の他に、切削された造形物から、シリコーンゴム、印象材、石膏などにより、鋳型作成をして、各種プラスチック、石膏、金属などの複製品が出来ることも試みてきた。本発表では、製造業において新しい成型法として注目されているラピッドプロトタイピング（Rapid ProtoTyping）と言われる積層造形法を用いて、分子模型の造形を試みた。光造形法については一部、昨年発表したが、今回は、インクジェット式３次元造形機による試みについて主に発表する。

（１）ソフト構成：主なソフトは以下の通りである。
　　　　分子モデリングソフト：Hypercube, Inc. の”HyperChem Professional Version”など
　　　　分子表示ソフト：Molecular Simulations, Inc. の”WebLab Viewer Lite”など
　　　　ＣＧソフト：Autodesk,Inc.の"3D Studio Max release 3”など

（２）ハード構成：パソコンを除く、主な装置。
　　　　積層造形機：豊田工機(株)製、インクジェット式３次元造形機　”MM-II”など
分子モデリングソフトなどで作成したデータ（ＰＤＢ形式など）で分子表示ソフトにより各模型を表示し、VRML形式のデータにして保存し、次に、ＣＧソフトを用いて、ＣＡＤ，ＣＡＭ用データ（ＤＸＦ形式やＳＴＬ形式など）に変換する。これらのデータを用いて積層造形装置で作成する。この他の分子座標データからＣＡＤデータへの変換方法は、前報1）に記述してある。

　試作品作成などで工業用に広く用いられているインクジェット式３次元造形機”MM-II”を用いた分子模型の造形例を下図に示す。ベンゼンの棒球模型、右はサポートの付いた例（図１）である。シクロヘキサン（図２）、コカイン（図３）、クラウンエーテル（中心のＫ原子を空間充填模型としている、図４）、バッキ-ボールC₆₀分子の棒球模型とサポート付の例（図５）である。積層造形法や切削加工法による造形法は、現状では、ポリマーやクラスタなどには処理能力の面で複雑すぎてまだ対応できようであるが、日々の技術的進展を見ると近い将来、さらに複雑な物質の造形も可能になると思われる。

1）化学ソフトウェア学会'98研究討論会講演要旨集、209、p60‐61、'99同、202、p44-45

　今回、MM-IIでの造形に協力していただいた、豊田工機(株)　新規事業部　大川祥二氏、小野直人氏、光造形機での造形に協力していただいた（有）せかい　榊一男氏に感謝します。