表計算ソフト(スプレッドシート)はワープロソフトと並び最も一般社会で使用されてる応用ソフトのひとつである。このソフトはたいていのパソコンに既にインストールされており、その使い方に習熟している学生、または機会があれば勉強したいと思っている学生は多い。一方で表計算ソフトは自然科学の分野でも、特に統計目的としてだけでなく、手軽な計算手段として様々な目的で使われ始めている。教育目的での反応速度のシミュレーションにも使われている。
薬学の学生にとって薬物速度論は必須の知識でありながら、難物の代表的なものでもある。そこで、薬物速度論の学習に際し、表計算ソフトを用いたシミュレーションソフトを学生に自作させ、その自作ソフトを使って自分で学習させることにした。その指導方法、利点、欠点を検討するとともに、具体例を示す。
指導手順のi)は、知ってる学生には省略した。そうでない学生にも、最小限にとどめた。これは、具体的な目的(テーマ)なしでの指導は、学生の興味を引きつけないし、身に付かないと判断したからである。指導手順のii)は、学生たちにとってははじめての経験で、大いに関心を示した。数式の入力にはもたつく場合もあったが、一つの数式はコピー機能で容易に増やせ、グラフの作成も容易で、定数値の変更により表の数値とグラフが瞬時に変わること等には感心していた。指導手順のiii)では、はじめテーマのみ与えられてしばしとまどい、また必ずしもいいソフトはできないし、自学の中身も不十分である。そこで初めは予想外にアドバイスすることになってしまったが、その場合もできるだけ学生の考えを生かすようにつとめた。テーマをこなすごとに、徐々に自作、自学できるようになってきた。
下記は、必ずしも学生に指導したとおりではないが、体内動態が線形1-コンパートメントモデルに従う薬物に関する指導例の模範を示す。
- (1)定速静注(点滴)
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- ソフト作成
- 公式による方法(ただし投与終了後の消失過程を含む)
- 自学の中身
- 投与速度(k0)、消失速度定数(kel)、分布容積(V)等の変化。対数プロット。
- (2)静注繰り返し投与
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- ソフト作成
- a;公式による方法、b;単回投与の和、c;負荷量と維持量を分ける場合
- 自学の中身
- ,b一致の確認。cで負荷量=維持量でa,b,c一致の確認。投与量(D),投与間隔(τ),投与回数(N),kel,V等の変化。対数プロット。血中濃度時間曲線下面積(AUC)関連。Dとτを小さくし、Nを大きくすれば(1)に近づき、またD/τ=k0の関係に近づく。
- (3)経口繰り返し投与
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- ソフト作成
- a;公式による方法、b;単回投与の和、c;負荷量と維持量を分ける場合
- 自学の中身
- a,b一致の確認。cで負荷量=維持量でa,b,c一致の確認。D,τ,N,kel,V,吸収速度定数(ka)等の変化。対数プロット。AUC関連。kaを大きくすると(2)に近づき、さらにDとτを小さくし、Nを大きくすれば(1)にづく。
結論として、既成ソフトを与えるより、教員は手間がかかり、学生も勉強を強いられたが、これは必ずしも悪いことではない。楽しくやれたし、教育効果は上がったと思う。また、卒論実習等ある程度まとまった時間がとれる場合に適する方法と思う。