演 題 |
膜透過シミュレーションプログラムの開発と無機膜透過プロセスへの応用
|
発表者 (所属) |
○小林泰則・高見誠一・久保百司・宮本明(東北大院工)
|
連絡先 |
〒980-8579 宮城県仙台市青葉区荒巻字青葉07
東北大学大学院工学研究科材料化学専攻
TEL:022-217-7238 FAX:022-217-7235
E-mail: |
キーワード |
Permeation, Membrane, Molecular Dynamics,Monte Carlo Simulation
|
開発意図 適用分野 期待効果 特徴など |
既往の分子動力学シミュレーションソフトでは取り扱うことの難しい膜透過過程に特化した膜分離シミュレーションソフトウェアを開発し、無機膜を用いた気体分離系に適用した。従来のソフトウェアでは不可能であった圧力差一定の条件下でのシミュレーションが可能であり、膜透過係数を直接算出できるという特徴がある。
|
環 境 |
適応機種名 |
Fortran77搭載機種
|
O S 名 |
Fortran77を搭載しているもの
|
ソース言語 |
Fortran 77
|
周辺機器 |
|
流通形態 |
- 化学ソフトウェア学会の無償利用ソフトとする
- 独自に配布する
- ソフトハウス,出版社等から市販
- ソフトの頒布は行わない
- その他:未定
| 具体的方法
東北大学の宮本明にコンタクトして下さい。(E-mail: ) |
分子動力学(MD)法は原子・分子の拡散挙動を原子レベルでシミュレーションできる非常に有用な計算手法である。従来は、分子動力学法は触媒表面上での活性粒子の拡散挙動や、多孔質材料内の吸着分子の拡散挙動などの研究に用いられてきたが、最近では膜分離シミュレーションへの適用も行われるようになってきている。しかしながら、一般に利用することのできる分子動力学プログラムでは、シミュレーションセル内にある原子数が一定の条件(カノニカルアンサンブル)であったため、シミュレーションが進むにつれて高圧側の気体分子数が減少してしまう現象が起きていた。そのため、透過の駆動力となる圧力差が次第に減少していくという問題点を抱えていた。そこで我々は、分子動力学法のアルゴリズムにグランドカノニカルモンテカルロ法による粒子の挿入・削除の操作を組み込むことにより、圧力差一定の条件での膜透過シミュレーションを可能にしたDCV-GCMD法[1]を元にしたDual Ensemble Molecular Dynamics (DEMD) というプログラムを独自に開発した。さらに、DEMDプログラムの分子動力学部分をモンテカルロ法を用いることにより計算速度の向上を図ったDual Ensemble Monte Carlo (DEMC) プログラム[2]も開発した。
DEMD、DEMCプログラムに用いられる計算セルの構造を図1に示す。図の高圧領域内では、グランドカノニカルモンテカルロ法による気体分子の挿入・削除の操作が行われ、領域内の圧力が常に一定に保たれている。また、高圧領域内および輸送領域内では気体分子の拡散挙動を分子動力学法により計算している。さらに、低圧領域内に進入してきた気体分子を削除する操作を行っている。これらの操作により、高圧領域と低圧領域の間の圧力差を駆動力として輸送領域内に設置した膜モデル内を気体分子が透過していく過程をシミュレーションした。
相互作用ポテンシャルには従来から用いられているLennard-Jones項[1]に加え、クーロン項を追加した。また、用いることのできる気体分子についても、従来は単原子分子モデル [1]を用いていたが、これらのプログラムでは直線型の分子なども計算可能である。
図1 DEMD、DEMCで用いられるシミュレーションセル
DEMDプログラムを用いてNaYゼオライト膜を用いた二酸化炭素・窒素分離シミュレーションを行った結果を示す。MDの積分時間は1.0×10-15秒で、1,000,000MDステップの計算を行った。そのスナップショットを図2に、計算の結果得られた気体分離係数の温度依存性を実験結果[3]とともに図3に示す。図2より高圧領域から、低圧領域へ気体分子が膜内を透過していく様子が観察できる。また、図3より、シミュレーションから得られた分離係数は実験結果と非常によく一致することがわかった。また、透過係数については、実験の膜は多結晶であるが、シミュレーションで用いた膜は完全結晶であるため、絶対値の比較はできないが、温度依存性については非常によく一致した。以上の結果から、本プログラムは膜透過・分離過程のシミュレーションに有効であることが示された。
図2 NaY膜によるCO2/N2分離シミュレーションのスナップショット
図3 分離係数の温度依存性